数年前までは数十万円と高額だった3Dプリンターですが、近年では低価格で2〜3万円のモデルでも十分に実用的な製品をプリントすることができます。これから3Dプリンターを趣味として始めたい初心者の方、種類が多くて何を買ったら良いかわからない方へ、アマゾンで買えてコストパフォーマンス良く、入門用としておすすめの機種を3Dプリンターヘビーユーザーの筆者が紹介します。
家庭用3Dプリンターの種類、造形方式
業務用の大型で高価な3Dプリンターを除いて、家庭用として販売されている3Dプリンターの造形方式は主に2種類です。
この造形方式によって扱い方や材料の保管方法、印刷した製品の品質が異なってきます。用途によってどちらにするか選ぶ必要があります。
FDM:熱溶解積層方式

FDM(Fused Deposition Modeling)若しくはFFF(Fused Filament Fabrication)とも呼ばれ、どちらも同じ意味です。フィラメントと呼ばれる糸状の樹脂材料を高温のノズルへモーターで送り出して、溶けた材料を何十にも積み重ねて造形物を印刷します。
フィラメントは硬度、柔軟性、質感、耐熱温度の違う様々な種類があり、3Dプリンター本体によって適応しているフィラメントが異なります。一般的に使われているフィラメントの材料の一種であるPLAはトウモロコシから作られる自然由来の樹脂で土に還るため環境に優しいです。
メリット
・材料のフィラメントが扱いやすい
・フィラメントの種類が豊富
・安価な機種は交換部品が共通、入手しやすい
・LCD方式に比べてコストパフォーマンスが良い
デメリット
・フィラメントは湿気に弱く、保管に注意が必要
・フィギュアなど複雑な構造物の印刷には不向き
・造形物はフィラメントの積層痕が残る
・面積の大きいモデルは印刷に時間がかかる
FDM方式の3Dプリンターはこんな人におすすめ!
・とりあえず3Dプリンターを初めてみたい、何か作ってみたい人
・小学生・中学生など若年層の教育として3Dプリンターを使いたい人
・自宅に3Dプリンター関連の機材を置くスペースが限られている人
LCD:光造形方式

光造形式の3Dプリンターは材料に液体のUV硬化性樹脂であるレジンを使用し、紫外線を照射させることで造形します。紫外線ビームを照射するSLA(Stereolithography)、スクリーンプロジェクターの様にピクセル単位で照射するDLP(Digital Light Processing)など光造形方式でも紫外線の照射する方法によって種類があります。家庭用の安価な光造形3Dプリンターでは液晶モニタのバックライトとして紫外線を照射するLCD(Liquid Crystal Display)のタイプが使用されています。
メリット
・造形物がFDMより綺麗に印刷できる
・大きい面積の印刷物でも印刷時間が変わらない
・透明の材料が綺麗に出力できる
・小さく複雑な構造に適している
デメリット
・印刷した造形物が紫外線に弱い
・FDMよりプリンター本体が高価
・印刷後の洗浄、二次硬化の道具、スペースが必要
・液体を使うので扱いにくい、掃除が大変
LCD方式の3Dプリンターはこんな人におすすめ!
・3Dプリンターでフィギュアやアクセサリーを作りたい人
・小さく精度の必要な部品を作りたい人
・透明な造形物を印刷したい人
FDM(熱溶解積層)方式 3Dプリンターの機能・選び方
3Dプリンターは多機能であればあるほど高額ですが、実際に普段3Dプリンターを使っている筆者からみてその機能がどの程度必要かを解説します。後述のおすすめの3Dプリンター欄でこれらの機能の有無について比較しやすいスペックを一覧にしました。
造形サイズ・本体サイズ

3Dプリンターで作りたいものがどのくらい大きいのかによって本体サイズが変わってきます。分からない場合は画像のAquilaやEnder3の220×220×240mmあれば十分です。但し、本体サイズもそこそこ大きいので自宅に置き場所が無い場合は小さい機種も選択肢に入れるべきかもしれません。
ヒートベッド

造形物が印刷される面をベッド、ビルドプレート、プラットフォームなどと呼ばれています。印刷時の定着を良くするためにここにヒーターが付いている機種がほとんどですが、安価な機種だとヒーター無しの場合があります。
印刷途中で剥がれたり、フィラメントの種類に制限ができてしまうので筆者としてはヒートベッド必須、絶対に付属しているものをおすすめします。
サイレントボード(モーター静音)

古いモデルや安価な3Dプリンターだと印刷時にモーターから出る騒音がうるさいです。特に家庭で使う場合は夜通し印刷することが多いので静音タイプをおすすめします。
騒音はモーターから出ますが原因は制御基盤にあるため「サイレントボード」と記載されている場合が多いです。例えばEnder3、Ender3 Proなどは印刷中の騒音がありますが、基盤をサイレントタイプに交換するだけで静かになります。
家庭で3Dプリンター専用の部屋等が無い限り、サイレントボード必須です。
ボーデン・ダイレクトエクストルーダー


フィラメントを押し出すエクストルーダーがノズルから離れている(ボーデン)、ノズル直上にある(ダイレクトエクストルーダー)の2種類があります。ゴムの様に軟性のあるTPUフィラメントなどを印刷する場合はダイレクトエクストルーダーが必要です。
後から改造してボーデンをダイレクトエクストルーダー化できるモデルもあります。
ベッド

ベッドの材質にも種類があり、ガラスベッド若しくはPEIコーティングがおすすめです。
後からベッドのプレートだけ購入できます。
フィラメント切れ検知機能

印刷途中でフィラメントが切れた場合にセンサーが検知し、一時停止することができます。実際に使ってみて、一時停止すると一旦ノズルの位置が動くので、一時停止したところの部分だけ若干層がずれてしまいます。綺麗に印刷したい場合は印刷し直しとなるのでそこまで必要な機能ではありません。
ベルトテンショナー

X,Y軸の移動にタイミングベルトが多く使用されており、ベルトが緩むと印刷精度が悪くなります。
ベルト駆動しているタイプはベルトテンショナーがあると便利です。改造部品として別売りしている機種もあります。
リニアガイド・ローラーガイド


X,Y,Zの稼働部分に使われている構造はリニアガイド、ローラーガイドの主に2種類でリニアガイドの方が精度良く、安定して綺麗な印刷ができます。ローラーガイドは頻度は多くありませんがローラ間の挟み具合の調整、極度に摩耗した場合はローラーの交換が必要です。
オートレベリング

通常、印刷前にはベッドのレベル調整が必要ですが、センサーにより自動でレベル測定・ソフトウェアによるメッシュデータのフィードバックで印刷座標にオフセットを加えることによるオートレベリング機能が付いている機種があります。
このレベル調整が上手く行かないと印刷に失敗するため、自動で調整してくれるオートレベリング機能はあると便利です。
その他、拡張性・カメラ・Wifiなど
サードパーティの改造部品の豊富さ、高価な機種ですとカメラで印刷状況のモニター、Wifi機能などが付いている場合。
コストパフォーマンス最高!2万円台で買えるFDMタイプの3Dプリンター入門におすすめの機種
Voxelab Aquila X2
本サイトで紹介している一押しの3Dプリンターです。Ender3 V2のコピーで構造や機能は瓜二つでありながら、Ender3 V2より約一万円ほど安く、使い勝手もよくコストパフォーマンス抜群です。
スペック
造形サイズ | 220 mm (L) X 220 mm (W) X 250 mm (H) |
ヒートベッド | ○ |
サイレントボード(モーター静音) | ○ |
エクストルーダータイプ | ボーデン |
ベッド | 強化ガラスプレート |
フィラメント切れ検出 | ○ |
ベルトテンショナー | ○ |
可動ガイド | ローラーガイド |
オートレベリング | X (追加可能) |
その他 | 改造パーツが豊富 |
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Voxelab Aquilaのスペック・組立・調整・使い方まとめ
アマゾンで2万円程度で購入できるFDM式3DプリンターのVoxelab Aquilaですが、日本語での情報が少ないので他機種との比較、実際に買ってみて組み立て方法や使い方、調整、改造等についてこちらの記事で紹介しています。 Voxelab ...
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Kingroon KP3S
造形サイズは若干小さくなりますが小型・軽量でX,Y軸にリニアガイドを使用。カラー液晶パネル、ダイレクトエクストルーダーなど欲しい機能が盛り沢山なのに2万円台で購入できます。3Dプリンターは主に小物を作ることがほとんどですので、造形サイズは必要以上に大きい必要はありません。自宅に3スペースが大きく取れない場合や机の片隅に置ける3DプリンターとしてKP3Sは一押しです。
スペック
造形サイズ | 180 mm (L) X 180 mm (W) X 180 mm (H) |
ヒートベッド | ○ |
サイレントボード(モーター静音) | ○ |
エクストルーダータイプ | ダイレクトエクストルーダー |
ベッド | マグネットシート (強化ガラス、PEIコーティングのモデルもあります) |
フィラメント切れ検出 | X |
ベルトテンショナー | X (追加可能) |
可動ガイド | リニアガイド |
オートレベリング | X (追加可能) |
その他 | 小型軽量 |
オートレベリングや多種類のフィラメントに対応、高機能で人気が高いモデル
Ender3 S1 Pro
門型タイプの3Dプリンターは安価で綺麗な印刷ができるCreality Ender3の発売を最初に一気に普及しました。オープンソースの為、Ender3は今でも人気で、有志ユーザー達がハード・ソフト共に改造、改良を重ねてサードパーティの部品やオープンソースのカスタムファームウェアでオリジナルの3Dプリンターに作り替えることができます。ベースとなるEnder3は今となっては作りが古く、他機種の方が多く改良されているのでカスタマイズ前提出ない限りは購入はおすすめできません。このEnder3の改良版がEnder 3 Pro→Ender 3 V2⇨Ender 3 S1⇨Ender 3 S1 Proの順に発売され、2022年現在の最終形態がEnder 3 S1 Proです。
Ender3シリーズを使い始めるとサードパーティの部品が豊富なため、改良したいと思える所が出てきますが、購入時から改良部品が全部搭載されているのがS1 Proと言っても過言では無いです。安価なモデルを買って部品交換する手間と時間を考えるとこのモデルを最初から買ってしまうのがコストパフォーマンスが良いはずです。
スペック
造形サイズ | 220mm (L) X 220mm (W) X 270 (H) mm |
ヒートベッド | ○ |
サイレントボード(モーター静音) | ○ |
エクストルーダータイプ | ダイレクトエクストルーダー |
ベッド | PEIコーティング マグネットシート |
フィラメント切れ検出 | ○ |
ベルトテンショナー | ○ |
可動ガイド | ローラーガイド |
オートレベリング | ○ |
その他 | タッチスクリーン、LEDライト、300℃耐熱のノズル、真鍮ヒートブレイク (別売りオプション;レーザー彫刻ユニット、水冷ヒートシンク、Wifi BOX) |
囲いの中で印刷するエンクロージャータイプの3Dプリンターは?
エンクロージャータイプの3Dプリンターは組み立て不要で造形物を印刷中に暖かく保持できるので、ベッドから剥がれにくくなったり、冷めると収縮するABSでの印刷に有効です。覆いがあるため本体サイズが大きく、価格も高い機種が多いです。
可動する部分が全て箱の中へ収まる形となるので見栄えが良いですが、レベル調整や掃除、メンテナンスがし難い難点もあります。
筆者はABSを印刷する機会というのが多くないと考え、1台目には上記で紹介したエンクロージャー無しの機種をおすすめしています。
後からエンクロージャーが欲しくなった場合は、この様なものが別売りで購入可能です。
LCD(光造形)方式 3Dプリンターの機能・選び方
家庭用として安価なLCD方式3Dプリンターの機能・性能の違いと選び方のポイントについてまとめました。
造形サイズ・本体サイズ

LCDの3Dプリンターは印刷サイズが液晶パネルのサイズとなるので大きければ大きいほど本体サイズの大きく、価格も高くなる傾向にあります。
解像度(ピクセルサイズ)

テレビと同じで2K,4K,8Kなど解像度の高い液晶パネルが使われている方が造形物が綺麗に印刷できます。但し、液晶の一つ一つのピクセル(ドット)は液晶パネルのサイズによります。例えは同じ液晶パネルサイズで比較した場合は解像度が高い方がピクセルが小さくなり、造形物が綺麗に印刷されますが、液晶パネルのサイズが2倍の解像度4Kとサイズ1倍の解像度2Kではピクセルのサイズが同じなので、出力の綺麗さ(細かさ)が変わりません。
スライサーソフト
3DデザインされたデータのSTLファイル等から造形物の角度やサポート材等を追加し、プリンターへ出力するデータを生成するスライサーソフトと呼ばれるソフトウェアが必要になります。FDMタイプの3DプリンターではUltimaker Curaが使いやすく最も普及しており、ほぼ全てのプリンターで対応しています。LCDタイプの3DプリンターはChituboxが同様に使いやすく最も普及していますが、一部機種ではメーカー専用のスライサーソフトのみ対応で、Chitubox非対応の物があります。
LCD(光造形)タイプの3Dプリンター入門におすすめの機種
ELEGOO Mars 2 Pro
各メーカーで同様のLCDタイプの3Dプリンターが発売されており、もっと安価なモデルもあり性能に大きな差はありません。その中でもELEGOOがユーザー数が多く、プリント時にモータの音が静音、匂いも少なく印刷が綺麗にできると評判です。Mars 2 Proは2K液晶で後継モデルのMars 3は4K液晶となりますが、造形物の綺麗さは目に見えて極端に差がありませんが、印刷速度が若干劣ります。
スペック
造形サイズ | 129 mm(L)X 80 mm(W)X 160 mm(H) |
XY解像度 | 0.05 mm (1620 X 2560) |
Z軸精度 | 0.00125mm |
層の厚さ | 0.01 mm - 0.2 mm |
印刷速度 | 1.5 - 3 sec / layer |
スライサーソフト | Chitubox |
ELEGOO Mars 3
Mars 2 pro の後継機種であるMars 3は4K液晶が採用されており、印刷精度が高くより綺麗な印刷が可能のはずです。Mars 2と実際に造形物を比較するとキレイさには大きく違いがありませんが、スペック上同じでも印刷が速くできるところが大きな違いです。また、造形サイズも若干大きく改善されています。
スペック
造形サイズ | 89 mm(L)X 143 mm(W)X 175 mm(H) |
XY解像度 | 35 μm (4098 X 2560) |
Z軸精度 | 0.00125mm |
層の厚さ | 0.01 mm - 0.2 mm |
印刷速度 | 1.5 - 3 sec / layer |
スライサーソフト | Chitubox |
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ELEGOO MARS 3 Pro レビュー スペック 使い方解説
光造形方式3Dプリンターで人気のELEGOO MARSシリーズの新型機種MARS 3 Proが発売しましたので早速購入してみました。本記事ではMARS 3 Proのスペック、実際に使ってみたレビューと使い方について解説します。 数ある光造形 ...
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